白地に赤い太陽、そこから放たれる十六条の光線。
それが旭日旗(きょくじつき)意匠の自衛艦旗(じえいかんき)です。
残念ながら、この旗が時として隣国で問題になることも一度や二度ではありません・・・。
そして、なぜ今もこのデザインなのか?
ただの飾りではないのか?
という疑問を耳にします。
この旗は、国際社会において「ここは日本国の軍艦(自衛艦)である」と高らかに宣言する、絶対的な身分証明書なのです。
特に、訓練のために港を出港する場合は、艦橋から「教練合戦準備(きょうれんかっせんじゅんび)」の号令が下る。
艦首(艦の一番前)の日の丸が降ろされ、マストの頂点へスルスルと自衛艦旗が掲揚される。
護衛艦が「平時の停泊モード」から「実戦を見据えた戦闘モード」へと覚醒する瞬間です。
この記事では、自衛艦旗に込められた法的な意味、歴史についてお届けします。
ぜひ最後までお読みいただき、この記事が皆様にとって価値ある情報となれば幸いです。
なぜ自衛艦旗(旭日旗)を掲揚するのか?

答えは、実はとてもシンプルです。
この船は、海賊船ではなく、日本国のちゃんとした軍艦(自衛艦)です。
と世界中に証明するためです。
海の上には、漁船やタンカーなど、たくさんの船が走っています。
その中で、ミサイルや大砲といった強力な武器を積んでいる「軍艦」は、他の船とは明確に区別されないといけません。
もし、旗も掲げずに武器を積んでウロウロしていたら、
ただの「危ない船」や「海賊」と間違われて攻撃されても文句は言えません。
だからこそ、「私は怪しい船ではありません」と証明する絶対的なマークが必要なのです。
「自衛艦旗」とは?旭日旗デザインの理由

まず、基本的な知識から整理します。
世間一般では「旭日旗」と呼ばれていますが、海上自衛隊における正式名称は
1954年の制定と歴史的背景
海上自衛隊が発足した1954年(昭和29年)、自衛隊法施行令によってこの旗は制定されました。
デザインは、旧日本海軍の「軍艦旗」と同じ、太陽の位置が少し左にずれた十六条旭日旗です。
「なぜ旧軍と同じデザインなのか?」という議論は制定当時もありました。
しかし、朝日が昇るデザインは古来より日本で「ハレの意匠」として広く使われてきた伝統的なものです。
大漁旗や祝賀の席でも見かけます。
当時の米内光政 海軍大臣の親戚であり、画家であった米内穂豊氏によって考案されました。
このデザインは、海上における視認性が極めて高く、遠くからでも「日本のフネだ」と識別できる機能美を備えています。
結果として、吉田茂 首相(当時)も「世界中の海で、この旗を知らない者はいない。
どこの国の艦か一目でわかることは、海の安全にとって最も重要である」として採用を認めたと言われています。
陸上自衛隊の旗とは「中心」が違う

よく混同されますが、陸上自衛隊の旗と海上自衛隊の旗は別物です。
見分けるポイント
| 項目 | 海上自衛隊(自衛艦旗) | 陸上自衛隊(自衛隊旗) |
|---|---|---|
| 光線の数 | 16条(16本の光) | 8条(8本の光) |
| 太陽の位置 | 左にずれている(偏心) | 中心にある |
| 主な用途 | 艦艇の後方またはマスト | 連隊等の指揮官旗、式典 |
| 縁の有無 | なし | 金色の縁取りがある場合が多い |
海上自衛隊の旗が左にずれているのには、実用的な理由があります。
海上で風にはためいた際、
旗竿に近い部分(太陽)が中心にあるよりも、少しずらした方が、旗がなびいた時に太陽が綺麗に見え、全体のバランスが美しく見えるからです。
この「美しさ」へのこだわりも、海軍時代から続く伝統の一つと言えます。
【現場のリアル】出港!「教練合戦準備」で旗が動く瞬間

ここからは、私が現役時代に経験した、護衛艦が出港する際の「旗の動き」について、お伝えします。
一般の方が港で見かけるのは「停泊中」の護衛艦の姿ですが、その護衛艦が動く時、旗もまた配置を変えます。
停泊中:艦首に「国旗」、艦尾に「自衛艦旗」

港に停泊している間、護衛艦は次の状態で旗を掲げています。
艦首(船の前のポール): 日の丸(国旗)
艦尾(船の後ろのポール): 旭日旗(自衛艦旗)
これは午前8時の「自衛艦旗掲揚」から、日没の「自衛艦旗降下」までの間、厳格に守られます。

停泊中は、艦はあくまで「休息中・整備中」の状態です。
しかし、一度出港すると状況は変わります。
「出港用意」から「教練合戦準備」へ

出港の号令はラッパの音と共に「出港用意(しゅっこうようい)」の号令がかかります。
係留ロープが外され、艦が岸壁を離れます。
そして、港の外に出て、本格的な訓練海域へ向かう際、艦内に号令が響きます。
「教練合戦準備(きょうれんかっせんじゅんび)!」
これは、単なる移動から「戦闘訓練」の状態へ移行する合図です。
この瞬間、甲板上の乗員(旗を扱う隊員)が目にも止まらぬ早業で動きます。
1.艦首の日の丸を降下:戦闘行動中、艦首の旗竿は邪魔になる上、波をかぶるため、速やかに収納します。
2.艦尾の自衛艦旗を降下: 同時に、後ろの旗竿も上甲板に倒します。
メインマストへ自衛艦旗を掲揚:艦の一番高い場所、メインマストへ自衛艦旗を一気に引き上げます。
一番高いマストに旭日旗が上がった瞬間、艦は「戦闘艦」としての威容を変貌させます。
この旗が風を受けてバタバタと音を立てて開く様を見るたびに、「さあ、仕事だ」と・・・。
ちなみに、
この「マストに戦闘旗(戦闘時の軍艦旗)を掲げる」という行為は、世界各国の海軍共通のルールであり、「我々は戦闘態勢にある」という意思表示でもあります。
なぜ掲げる必要があるのか?国際法上の「身分証明」としての役割

「カッコいいから掲げている」わけではありません。
護衛艦や潜水艦が自衛艦旗を掲げることには、極めて重い法的根拠があります。
それは国連海洋法条約などの国際法です。
軍艦としての身分証明
国際法上、公海(どこの国の海でもない海)において、「軍艦」として認められるためには、次の要件を満たす必要があります。
・その国の軍隊に所属していること。
・その国の政府によって任命された指揮官(艦長)がいること。
・正規の軍律(規律)に従う乗組員がいること。
・その国籍を示す「外部標識」を掲げていること。
もし、護衛艦がこの旗を掲げずに公海を航行していたらどうなるでしょうか?
国際法上、それは「国籍不明船」あるいは「海賊船」とみなされても文句は言えません。
自衛艦旗を掲げることで初めて、護衛艦は日本国を代表する「軍艦」としての特権(公海上の不可侵権など)を行使できるのです。
商船とは違う「軍艦(護衛艦)」の証
海には多くの商船や漁船が行き交っています。
それらの民間船と、実力を行使できる自衛艦を明確に区別するためにも、自衛艦旗は必須です。
遠くの水平線からでも、「あの独特の旭日模様が見えたら日本の自衛隊だ」と世界中の船乗りが認識しています。
護衛艦の乗員として実感してきた「世界の常識」でした。
まとめ:なぜ自衛艦旗(旭日旗)を掲揚するのか?
今回は、海上自衛隊の護衛艦が掲げる「自衛艦旗(旭日旗)」について、法的な意味や出港時の掲揚手順をお届けしました。
デザイン: 視認性を重視した伝統的な意匠であり、陸上自衛隊とは異なる。
訓練での出港時:「教練合戦準備」の号令と共に、艦首の国旗が降ろされ、マストの頂点へ自衛艦旗が昇る。これが戦闘モードの合図。
法的な意味:国際法上、軍艦であることを証明する「パスポート」であり、絶対に欠かせない装備品。
護衛艦を見る際は、ぜひ旗に注目してみてください。
もしも海上で護衛艦を見かけることがあれば、その旗が艦の一番高い場所で、風を受けてバタバタと激しくはためいているなら、その艦は訓練で出港しています。
その旗を見てきた一人のOBとして、この美しい旗の意味が一人でも多くの方に伝わることを願っています。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。


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